見返り柳は、近世から近代にかけての日本文学および伝統芸能において、情緒を象徴する重要なトポス(場所)として繰り返し描かれてきた。
最も著名な文学作品は、近代日本文学の最高峰と称される樋口一葉の中編小説『たけくらべ』(明治28〜29年発表)である。その冒頭部分は、日本文学史上で最も美しい書き出しの一つとして知られている。
「廻れば大門の見返り柳いと長けれど、お歯ぐろ溝(どぶ)に燈火(ひ)うつる三島神社の角をまがりて、大音寺前と名づくる百軒長屋…」
一葉は吉原のすぐ近く(現在の一葉記念館周辺)に居住し荒物駄菓子屋を営んでいた経験から、遊廓の光と影、そこに生きる子供たちの思春期の揺らぎを見事に活写した。この冒頭において、見返り柳は吉原という世界の巨大な存在感を示すランドマークとして提示されている。
また、江戸の古典落語の世界においても、見返り柳は頻繁に登場する。代表作『明烏(あけがらす)』では、堅物な若旦那が遊び人の仲間に騙されて吉原へ連れて行かれ、翌朝すっかり廓の魅力に取り憑かれて柳のたもとで振り返る様子が滑稽かつ風情豊かに描写される。その他『付き馬』『百川』など、朝帰りのシーンを描く演目において、見返り柳は「粋(いき)」と「野暮(やぼ)」を対比させる舞台装置として不可欠な存在であった。