全国の飲食店で牛レバ刺しの提供が禁止され、豚肉の生食も法的に厳しく制限される中、なぜ南九州では鶏肉の生食文化が存続しているのでしょうか。その鍵は、厚生労働省の通知と自治体ごとの条例運用の違いにあります。
前提として知っておくべきは、鳥刺しとたたきの違いです。一般に鳥刺しは完全に生の状態で提供される刺身を指し、たたきは肉の表面を高熱の直火で炙って殺菌し、氷水で締めて旨味を閉じ込めたものを指します。しかし、中心部が生である点において、食品衛生上のリスク管理アプローチは根本的に共通しています。
厚生労働省は全国の自治体に対し「生食用食鳥肉の衛生基準」に関する通知を出していますが、実質的には鶏肉の生食を推奨しておらず、中心部までの十分な加熱(75度で1分以上)を基本方針としています。これに対し、古くから鶏肉を生食する文化が根付いていた鹿児島県は、2000年に全国に先駆けて独自の「生食用食鳥肉安全基準」を策定しました。宮崎県でも同様に厳しい指導要領が運用されています。
本場で流通する地鶏のたたきが安全とされる理由は、単に「新鮮だから」ではありません。解体処理の段階から一般の加熱用ブロイラーとは完全に分離された認定工場で、腸管損傷による菌の飛散を極限まで防ぐ特殊な解体技術が用いられています。さらに、表面加熱殺菌や冷却管理の数値基準をクリアした検体のみが出荷を許可されるという、極めて厳格なハードルが存在するのです。