作家として大成する以前、開高はサントリーの前身である寿屋の宣伝部に在籍していた。山口瞳や柳原良平らと共に、日本の広告史に刻まれる数々の傑作コピーや PR 誌『洋酒天国』を手がけたことは有名だ。
「人間らしくやりたいナ」――この短いフレーズに象徴されるように、彼のコピーは単なる商品のPRを超え、高度経済成長期へと突き進む日本人の孤独や疲弊を鋭く包み込む優しさと痛みに満ちていた。市場の欲望を客観的に見つめ、短い言葉で人の心を鷲掴みにする技術は、この広告制作の現場で研ぎ澄まされたものだ。
人間観察の冷徹さと、大衆の感情の機微を察知する感性。この双輪こそが、後に彼が出版業界全体を揺るがすノンフィクション作品を生み出すための不可欠な下地となった。