「いとおかし」を日本文学の金字塔へと押し上げた立役者が、平安中期の女房・いとおかし 清少納言です。彼女が著した随筆『枕草子』は、まさに「をかしの文学」と呼ばれ、全編を通じて鋭い観察眼と知的なセンスが散りばめられています。
その真骨頂が、冒頭の第一段である春はあけぼの いとおかしの段です。四季それぞれの最も心惹かれる瞬間を切り取った名文を見てみましょう。
「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少しあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」(春は明け方が良い。だんだんと白くなっていく山際の空が少し明るくなって、紫がかった雲が細くたなびいているのが、たいそう趣深い)
さらに『いとおかし 枕草子』の本文を読み解くと、清少納言の視線は劇的な大自然だけでなく、夏の夜に飛び交う蛍の光、雨の日に急ぎ足で歩く人々の足元、冬の早朝に雪や霜が降りて張り詰めた空気など、日常のささやかなディテールに注がれています。当時の貴族社会の手記や宮廷記録と照らし合わせても、彼女の筆致は物事を悲観的に捉えるのではなく、「日常の中に潜むきらめきを発見する前向きさ」に満ちていました。