ドラマを巡る論争の中で、死亡説と並んで頻繁に取り沙汰されるのが「パク・テスは実在の人物なのか」という疑問です。歴史資料を精査すると、パク・テスという武官は朝鮮王朝の正史『朝鮮王朝実録』には一切登場しない、完全な創作キャラクターであることが判明しています。
しかし、制作陣が全くのゼロから彼を生み出したわけではありません。テスには明確な史実モデルが存在します。それが、正祖の命を受けて朝鮮古来の武芸書『武芸図譜通志(ムエドボトンジ)』の編纂を主導した当代屈指の剣客、白東脩(ペク・ドンス/1743〜1816年)です。
白東脩は庶子の出身という身分制限に苦しみながらも、圧倒的な武芸の才によって正祖の親衛部隊「壮勇営」の初代師父に抜擢され、王の身辺警護と軍事改革の最前線に立ちました。ドラマ『イ・サン』におけるテスが、下級階層の出身でありながら実力で武科(武官の登用試験)に首席合格し、壮勇営の中核へと出世していくプロセスは、まさに白東脩の足跡を色濃く反映しています。
後に白東脩自身を主人公に据えたドラマ『武士ペク・ドンス』(チ・チャンウク主演)が制作されたこともあり、「白東脩とパク・テスが同一人物なのか」「史実の白東脩が若くして戦死したという誤認」がネット上で錯綜し、テスの死亡説に拍車をかける一因となりました。テスという人物は、白東脩をはじめとする名もなき護衛武官たちの忠節をひとつに結晶化させた、イ・ビョンフン監督による最高傑作のアーキタイプなのです。