イブプロフェンに対する懸念が一気に世界へ広がった契機は、2026年3月にフランスの保健大臣がSNS上で発信した警告でした。当時、「イブプロフェンなどの抗炎症薬が感染を悪化させる可能性があるため、発熱時にはパラセタモール(アセトアミノフェン)を服用すべき」とのメッセージが投稿され、メディアが一斉に報道したことで国際的なパニックが引き起こされました。
この警告の背景には、医学雑誌『ランセット(The Lancet)』に掲載された短いレター論文がありました。新型コロナウイルスは細胞表面の「ACE2受容体」を介して体内に侵入しますが、イブプロフェンがこのACE2受容体の発現を増加させる可能性が指摘され、「ウイルスの増殖を助長し重症化を招くのではないか」という仮説が立てられたためです。
しかし、これはあくまで試験管レベルの理論的仮説に過ぎませんでした。その後、世界各国で数十万人規模の感染者を対象とした大規模な疫学調査や臨床研究が実施されましたが、イブプロフェン服用患者における重症化率・死亡率の上昇を示すデータは一切確認されませんでした。
WHO(世界保健機関)も当初の慎重姿勢を迅速に改め、2026年3月18日時点で「現時点でイブプロフェンの使用を控えるよう勧告する科学的証拠はない」とする声明を正式に発表しました。つまり、「イブプロフェンでコロナが悪化する」という説は、初期の未検証な仮説が過剰に拡散された結果生まれた誤解であったことが医学的に証明されています。