1967年、『火垂るの墓』と共に第58回直木賞を受賞した『アメリカひじき』は、日本文学界と出版業界に大きな地殻変動を引き起こした。戦後の占領下における日本人と米兵の複雑な主従関係、そしてコンプレックスを、野坂独特の饒舌で滑稽な文章体で描き切った快作である。
敗戦によって価値観が180度ひっくり返った昭和文学の景観において、野坂の提示した歪んだ戦後観はあまりにも強烈だった。助かるためにアメリカから給与された脱脂粉乳や紅茶の葉(ひじきと見紛うばかりの食べ物)に群がった記憶。進駐軍への屈従と憧憬が入り混じる複雑な心理描写は、それまでの「被害者としての戦争文学」の枠組みを根底から打ち壊した。文藝春秋をはじめとする文壇の評者たちは、その破天荒な文体と深遠な社会批評性に息を呑み、彼を昭和文学の寵児として一気に押し上げることとなった。