企業が人員削減を行う際、解雇予告手当の支払いや不当解雇訴訟のリスクを嫌い、極めて巧妙に仕掛けてくるのが「退職勧奨」です。面談室で人事実務担当者が「君の今後のキャリアのためにも、会社都合の解雇ではなく自発的な退職という形にした方が傷がつかない」と甘い言葉を囁く手口は、昭和・平成から令和に至るまで変わらぬ常套手段です。
ある大手IT企業を退職した元社員(38歳・男性)は、当時の面談の異様な空気をこう振り返っています。
「『これ以上残っても君に与える仕事はないし、評価も最低ランクになる。今日この場で合意退職届に一筆書いてくれれば、退職金を少し上乗せする』と迫られました。逃げ場を塞がれ、目の前が真っ白になってサインしてしまいましたが、後から調べると会社都合の失業保険受給資格を潰すための罠でした」
人事労務の現場を長年取材してきた弁護士や社会保険労務士が口を揃える退職勧奨と解雇の経緯と対処法の鉄則は、「その場で絶対に合意書や退職届に署名・捺印しないこと」です。退職勧奨は法的には単なる「会社からのお願い(意思確認)」に過ぎず、労働者に応じる義務はありません。
もし退職に応じる場合であっても、提出する書面には「一身上の都合により退職」と書いてはなりません。「貴社からの退職勧奨に伴い退職いたします」と明記し、複写を手元に控えておく必要があります。また、面談時のやり取りをICレコーダーやスマートフォンで録音しておくことは、自身の身を守る正当防衛として法的に認められています。「言った・言わない」の水掛け論を排し、ハローワークに客観的事実を立証するための最強の切り札となります。