千代田区一ツ橋。ここはかつて、活字の匂いと編集者たちの熱気で満ちていた。築年数を重ねたビル群の中でも、岩波書店の拠点は特別なオーラを放ってきた。だが、容赦なく流れる時間が壁を蝕み、配管を錆びつかせる。安全性の確保は待ったなしの課題だ。歴史的価値があるからといって、そのまま放置するわけにはいかないのが都市の宿命である。
関係者への取材によると、建物の維持管理コストは年々跳ね上がっていたという。特に地震大国である日本において、旧耐震基準やそれに準ずる古い設計のビルを維持することは、企業にとっても大きなリスクとなる。文化的価値の保存と、現実的な安全対策。この二者択一ではない解決策が模索されてきた。