2009年9月19日にオープンしたH&M渋谷店は、銀座店、原宿店に続く国内屈指の大型旗艦店として誕生しました。売り場面積約2,800平方メートル、地上4階・地下1階という国内最大級のスケールを誇り、週末には入場制限がかかるほどの熱狂を生み出しました。
そのランドマークが2026年8月2日をもって営業を終了した際、運営元であるエイチ・アンド・エム ヘネス・アンド・マウリッツ・ジャパンは「賃貸借契約の満了に伴う決定」と公式に発表しました。しかし、ファッション流通の専門家や市場関係者の分析によると、その裏には複合的な3つの構造要因が存在していました。
第1の要因は、グローバル規模での店舗ポートフォリオ見直しとECへのシフトです。H&Mグループは世界各地で不採算店舗の整理を進めると同時に、アプリやオンライン販売の強化へリソースを大きく再配分していました。旗艦店としてのブランディング役割が一巡し、高額な賃料を支払いながら巨大店舗を維持する投資対効果が見直された形です。
第2の要因は、インバウンド需要の激変と来店パターンの変化です。閉店が決定された時期は、新型コロナウイルス感染症の影響による渡航制限が長引き、渋谷エリア全体の訪日外国人客による消費が激減していました。若者の購買行動も「大型店でのまとめ買い」から「SNSを起点としたオンライン購買やパーソナライズされた体験」へと多様化が進んでいました。
第3の要因として挙げられるのが、渋谷駅周辺の大規模再開発に伴う人の流れの変化です。渋谷ヒカリエや渋谷スクランブルスクエア、MIYASHITA PARKなど、駅直結・駅近の複合施設へ回遊導線が集中するようになり、文化村通り方面の路面大型店にかかる集客プレッシャーが高まっていたことも影響を与えました。