歌丸師匠が生涯最後に上がった高座は、亡くなる約2か月半前の2018年4月19日、国立演芸場での舞台でした。演目は、口うるさい家主が店子に小言を並べる滑稽噺の名作『小言幸兵衛(こごとこうべえ)』でした。
この日、師匠は自力歩行が難しく車椅子で袖まで向かい、鼻に酸素カニューレ(酸素吸入チューブ)を通し、着物の袂に小型の酸素ボンベを忍ばせた状態で座布団へと座りました。約18分間の口演中、呼吸が苦しそうになる場面もありましたが、いざ噺に入ると表情は一変。幸兵衛の偏屈さと愛嬌を見事なテンポと豊かな表情で演じきり、客席は笑いと惜しみない拍手に包まれました。
高座を下りた直後に極度の疲労から再入院となりましたが、文字通り「命を削って落語を紡いだ」伝説のステージとなりました。