写真作品で培われた極限の美学は、やがて実体を持つ「空間」へと結晶化していった。その極致と言えるのが、神奈川県小田原市の相模湾を見下ろす丘陵地に建設された「小田原文化財団 江之浦測候所」である。敷地内には、冬至の朝日や夏至の朝日を正確に迎え入れるための光の廊下や石舞台、千年前の廃材を用いた建築が整然と配置されている。
ここで探求されているのは、使い捨ての現代デザインではなく「遺跡としての建築」だ。数千年の歳月が流れ、たとえ人間が滅び去ったとしても、その構造物だけが静かに残され、太陽の光を受け止め続ける。そんな超長期的なスパンで構想された広大な空間は、現代建築のあり方に根本的な疑義を突きつけている。都市の消費サイクルに対する静かな反逆であり、未来の文明へ宛てた壮大なタイムカプセルなのだ。