大手予備校の記述指導現場や添削データにおいて、毎年非常に多くの受験生がつまずくのが「補助動詞を訳出しないケースがある理由」だ。模試の解答解説に「この給ふは訳出しない」あるいは「現代語訳では敬意の重複を避ける」と書かれているのを見て、混乱した経験を持つ読者も少なくないはずだ。
大手予備校の教務関係者は、近年の共通テスト古文識別問題の傾向について次のように分析する。「古文の敬語補助動詞は、現代語の感覚で一字一句『〜なさる』『〜申し上げる』と愚直に訳していくと、日本語として極めて不自然な二重敬語・三重敬語を生み出してしまう。平安貴族の文章において『給ふ』などは、現代語の敬語よりもはるかに文法的な標識(マーカー)として日常的に多用されていたため、すべてを重々しく訳すと文脈の焦点がぼやけてしまうのだ」。
つまり、補助動詞訳さない理由の本質は「訳出の放棄」ではなく、「現代日本語の文体として自然な敬意レベルに整えるための調整」に他ならない。例えば、「咲き給ふ」を「お咲きになりなさる」と訳すのは滑稽であり、「お咲きになる」あるいは主語が自然物であれば敬意を省いて状況のみを記述する方が、文脈の真意を正確に伝える場合がある。読解の過程においては「誰が高められているか」を脳内で厳密に判定しつつも、訳出の段階では日本語としてこなれた形に着地させる二段階の思考が必要なのだ。