1980年代、ワイドショーや芸能誌は二人の一挙手一投足を「聖子派 vs 明菜派」という二項対立に仕立て上げた。清純派の究極形として登場し、セルフプロデュースで時代のアイコンとなった松田聖子。一方で、憂いを帯びた眼差しと低音のビブラートで大人たちの胸を射抜いた中森明菜。大衆はこの対比に熱狂した。
しかし、歌番組の楽屋裏を知るベテラン音楽プロデューサーは次のように証言する。「バチバチ火花を散らしていたのは周囲のスタッフやファンであって、本人たちの間には奇妙な連帯感があった。誰も経験したことのない異常な熱狂の中心に立っていた二人だからこそ、言葉を交わさずとも通じ合う敬意が存在していた」。カメラが回っていないスタジオの片隅で、衣装や髪型を巡り互いに声を掛け合っていた姿は、作られた虚像とはかけ離れたリアルなプロ同士の姿だった。