歴史の糸を巻き戻すと、この言葉のダイナミズムが浮き彫りになる。日本語学の領域において、「ございます」のルーツは中世から近世にかけて成立した「ござある」に辿り着く。これは「御座(ござ)有り」、すなわち身分の高い人物の座所に「在る」という尊貴な存在表現がルーツだった。それが時間をかけて「ござります」へと滑らかに変化し、やがて江戸の町人文化や近代の標準語化の波に乗って「ございます」へと研ぎ澄まされていった。
国立国語研究所が所蔵する膨大な言語コーパスや歴史的文献を紐解くと、言葉が時代ごとの階層意識や商業取引の発展とともに、いかにその姿を変容させてきたかが手にとるようにわかる。かつては最高度の敬意を帯びていた神聖な表現が、社会の都市化や商業化の進展によって、一般的な丁寧表現へと機能拡張していった過程は実に興味深い。
言葉は固定された石碑ではなく、生きて呼吸する有機体だ。中世の貴族社会から現代のガラス張りのオフィスに至るまで、語形が短縮され、響きが整えられてきた歴史を知れば、単なるマナー本の暗記では得られない「敬意の重み」が自ずと腑に落ちるはずだ。