事件から2年が経過した1999年、加害男性の両親は『「酒鬼薔薇」を生んだ家庭』と題した手記を出版した。この手記は、我が子が起こした恐ろしい事件に対する深い贖罪の念と、家庭内で起きていた異変を察知できなかった親としての痛恨の自責が克明に綴られたノンフィクション作品である。出版当時、加害者家族が手記を出すことに対する賛否両論が巻き起こったが、そこに記された苦悩の記録は多くの読者に衝撃を与えた。
母親が著した章では、我が子の幼少期の兆候や日常の会話、事件発覚時の絶望的な心理状態が細かく記されている。家庭内で何が起きていたのか、なぜ凄惨な犯罪を阻止できなかったのか。親としての盲点と無力さを直視する作業は、血を吐くような苦痛を伴うものだった。印税のすべてを被害者遺族への賠償金に充当することを前提として発表されたこの手記は、事件の背景を探るうえでいまなお犯罪心理学の専門家からも参照される重要な資料となっている。