オートロックをすり抜けた先、共用廊下には異様な緊張感が張り詰めている。2026年に入り、警察の包囲網を警戒する組織の動きはより巧妙化していると語るのは、長年このフロアで違法カジノの警備に関わってきた元関係者の男性だ。
「廊下ですれ違う相手の顔を絶対に凝視しないこと。ドアスコープに不審な光が見えても決して立ち止まらないこと。これがここでは暗黙の了解だ。いまやドアノブに触れる指紋ひとつにも神経を尖らせている連中ばかりだからな」
関係者のリークによれば、現在のマンション内部では従来型の組事務所としての利用だけでなく、トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)の拠点や、海外逃亡を図る指名手配犯の一時的な潜伏先として部屋が又貸しされるケースが急増しているという。表札のない一室で深夜に行われる薬物の小分け作業や、暗号資産を介したマネーロンダリングの打ち合わせ。一歩部屋を間違えれば、二度と表の社会には戻れない危険が日常のすぐ隣に潜んでいる。