高知を訪れた観光客がまず足を止め、スマートフォンのカメラを向けるのが、パラソルに刻まれた「1×1=1」の幾何学的なロゴマークです。地元では「いちかけるいち」の愛称で親しまれていますが、このユニークすぎる名称は決して現代的なバズ狙いで生まれたものではありません。
製造元である有限会社1×1=1(高知県高知市吸江)の公式記録によると、創業は大正10年(1921年)。初代創業者である弘瀬吉五郎氏がアイスクリンの製造販売を始めた際、「商いにおいて最も大切なものは何か」を熟考した末に名付けられました。
その根底にあるのは、「1に何を掛けても1、1に1を掛けても決してそれ以上にはならない。だからこそ、余分な混ぜ物でカサ増しをせず、純粋無垢な素材だけで勝負する」「初心を決して忘れない」という、実直極まりない商人道です。原料を偽らず、常に1つの真心を込めて1つの最高峰を作り上げる――この引き算の美学が、「1×1=1」という究極のミニマリズム数式へと昇華されたのです。
大正から昭和、平成、令和と激動の時代を経てなお、同社はこの屋号を変えることなく掲げ続けています。派手な装飾や目まぐるしいトレンドが消費されては消えていく現代において、このシンプルかつ愚直なメッセージは、むしろ若い世代のSNSでも「本質を突いたネーミング」として再評価されています。