フランスの食卓の絶対的な主役であり、食文化の精神的支柱ともいえるのがパンです。2026年にフランスの「職人の技とバゲットの食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことは記憶に新しい事実ですが、街角のブランジェリー(パン屋)に並ぶパンのバリエーションは、形状や発酵方法によって厳密に定義されています。
日本で一般に知られる棒状のパンにも明確な規格が存在します。最も標準的な「バゲット(Baguette)」は約250g、長さ65cm前後の細長い形状を指しますが、現代のフランスで舌の肥えたパリジャンが指名買いするのは、法律で添加物の使用が一切禁じられた「バゲット・トラディション(Baguette de Tradition)」です。小麦粉、水、酵母(またはルヴァン種)、塩のみを使用し、長時間の低温発酵によって引き出された深い麦の甘みと大きな気泡が特徴です。
太めで柔らかいクラム(内相)を多く残した「バタール(Bâtard)」や、丸型の「ブール(Boule)」、田舎風を意味しライ麦や全粒粉を配合して数日間の保存に適した大ぶりの「パン・ド・カンパーニュ(Pain de Campagne)」など、合わせる料理のソースの濃度や肉の種類によってパンを使い分けるのが本場の流儀です。なお、クロワッサンやパン・オ・ショコラはパンではなく、油脂や砂糖を贅沢に使った「ヴィエノワズリー(ウィーン風発酵菓子)」として厳密に区別されています。