保冷剤の廃棄や取り扱いにおいて、ネット上で頻繁に囁かれるのが「保冷剤の中身には劇薬が入っている」「ペットが舐めたら死に至る」という情報です。この言説の真偽を検証するには、保冷剤の歴史と成分の変遷を正しく知る必要があります。
かつて昭和から平成初期にかけて流通していた一部の不凍保冷剤や、現在でも自動車の不凍液などに用いられている物質にエチレングリコールがあります。エチレングリコールは無色無臭でシロップのような甘味を持ちますが、体内で代謝されるとシュウ酸カルシウムを形成し、急性腎不全や中枢神経麻痺を引き起こす極めて毒性の高い有機化合物です。体重1kgあたりわずか1〜2mlの摂取でも犬や猫の致死量に達します。
しかし、日本保冷剤工業会の自主基準および厚生労働省の安全指針により、現在日本国内で一般消費者に配られる食品用保冷剤において、エチレングリコールの使用は原則として全廃されています。現行の市販保冷剤の99%以上は、極めて毒性の低いポリアクリル酸ナトリウムまたはプロピレングリコール(食品添加物としても認可されている安全な成分)が使われています。
公益財団法人日本中毒情報センターの公開資料によると、現代の一般的なソフト保冷剤を一口誤飲した程度であれば、化学的な中毒症状を発症する可能性は極めて低いと評価されています。
ただし、「化学的無毒=物理的無害」ではない点に強い警戒が必要です。高吸水性ポリマーが乳幼児や高齢者の喉、あるいは犬や猫の気道や腸管に入り込んだ場合、体液を吸って膨張し、窒息や機械的腸閉塞を引き起こす物理的事故が報告されています。海外製の輸入食品に添付されている保冷剤や、業務用・アウトドア用の特殊な硬質アイスパックには、国内規制外の成分が含まれているリスクもゼロではありません。万が一誤飲した際は、水で口内をゆすいだ上で、無理に吐かせず医師や獣医師の診察を受けることが推奨されます。