結論から明かせば、「風あざみ」という名称の植物は現実の自然界には存在しない。植物図鑑をどれほど紐解いても、その名を持つ花を見つけることは不可能だ。では、なぜこの言葉はこれほどまでに鮮明な季節の情景を私たちの脳裏に描き出すのだろうか。
その真相は、作詞を担当した井上陽水による見事な「造語」にある。夏から秋にかけて可憐な紫色の花を咲かせるアザミ(植物)の佇まいと、季節の移ろいを告げる秋風。そのふたつを詩的な感覚で掛け合わせることで、実在しないはずの花を聴き手の心の中に咲かせたのだ。アザミ(植物)が秘める静かな力強さと風の流動感が融合し、あたかも昔から存在する大和言葉であるかのような心地よい錯覚を生み出している。