「飛行機を降りてホテルに着いても、一向に耳の詰まりが抜けないのは一体なぜなのか」――その答えは、中耳(鼓膜の奥の空間)の気圧を調整する耳管(じかん)の機能不全にあります。
そもそも飛行機で耳が痛い理由の根源は、巡航高度(約1万メートル前後)から降下する際の急激なキャビン内気圧の上昇です。旅客機の機内は地上気圧の約0.8気圧程度(標高2,000メートル相当)に減圧されており、着陸に向けて降下を始めると機内の空気密度が高まります。このとき、中耳腔内の気圧は低いままであるため、鼓膜が外側から内側へと強く押し込まれます。
通常であれば、鼻の奥と中耳をつなぐ耳管が自然に開き、外気を取り込んで鼓膜の内外の圧力を瞬時に等しく保ちます。ところが、アレルギー性鼻炎や風邪、副鼻腔炎、あるいは疲労などによって耳管の粘膜が腫れていると、管が狭小化する気圧変化と耳管狭窄症に似た状態に陥ります。その結果、中耳腔内は強い陰圧(バキューム状態)のまま固定され、鼓膜が内側に引っ張られ続けることで、持続的な耳閉感や鈍痛が発生します。
さらに陰圧状態が長時間放置されると、中耳腔の粘膜から血管の液体成分が染み出し、鼓膜の奥に水が溜まる「漿液性(しょうえきせい)中耳炎」、ひどい場合には粘膜の毛細血管が破綻して血が溜まる「出血性中耳炎」を引き起こします。これが、フライトを終えて地上に戻ったにもかかわらず耳が元に戻らない、航空性中耳炎の症状と期間を長期化させる決定的な生理学的構造です。