20世紀に入り、この概念に決定的な科学的アプローチを試みたのがジークムント・フロイトだ。彼は精神分析学を構築する過程で、エロスを「生の欲動(生衝動)」と位置づけた。個人の生存維持だけでなく、他者と繋がり種を保存しようとする強烈な心的エネルギーの総体である。
興味深いのは、フロイトが晩年に至り、エロスの対立概念としてタナトス(死の欲動)を見出した点だ。人間には破壊や静止、原始の無機状態へ戻ろうとする無意識の欲求が存在する。生み出し結合しようとするエロスと、破壊し無に帰そうとするタナトス。この二つの相反するエネルギーが激しく葛藤する場こそが、人間の無意識という名の深淵なのだ。