巨匠・松本清張が紡いだ原作小説と、現代風にアレンジされた映像作品の間には、時代背景に起因する興味深い差異が存在する。新潮社から刊行された1980年代の原作では、脱税の手口や銀行の架空口座を巡るトリックが、高度経済成長期の歪みを生々しく告発する社会派推理小説としてのリアリズムに根ざしていた。
ドラマ版において巧みにアップデートされたのは、元子が背負う「動機」の深度だ。原作の元子は極めてドライで計算高い女性として描かれる一方、現代のドラマ版では派遣社員としての使い捨ての悲哀や、親の借金に縛られた過去といったバックストーリーが付与された。持たざる若者がシステムに復讐を果たすという構図を強調することで、視聴者の共感とカタルシスを倍増させる演出が施されている。さらに、破滅へと向かう結末の描き方も媒体ごとに異なるため、原作と映像の双方を体験することで作品の多層的な面白さが浮き彫りになる。