多発性筋炎は、本来であればウイルスや細菌などの外敵から身体を守るはずの免疫システムが暴走し、自分自身の骨格筋を異物とみなして攻撃・破壊してしまう自己免疫疾患です。国内の患者数は約2万人(皮膚筋炎を含む炎症性筋疾患全体)と推計されており、男女比はおよそ1対2から1対3で女性に多く、発症年齢は50代〜60代の中高年がピークとされていますが、小児期を含めあらゆる年代で発症します。
近位筋に現れる筋力低下の具体的特徴
多発性筋炎の筋力低下には極めて明確なパターンが存在します。それは身体の中心に近い筋肉、すなわち「近位筋(体幹、肩周囲、二の腕、骨盤周囲、太もも)」が左右対称に侵される点です。指先を使う細かな作業(ボタンかけやペンを持つこと)は比較的保たれる一方で、大きな筋力を必要とする動作から障害が顕在化します。
- 上半身の危険サイン:洗濯物を高い位置に干せない、ドライヤーを使い続けると腕がだるくて下ろしてしまう、つり革に長時間つかまっていられない。
- 下半身の危険サイン:手すりを使わないと階段を上れない、椅子や和式トイレから立ち上がる際に手をつかないと立てない、バスや電車の段差でつまずく。
- 頸部・咽頭のサイン:横になった状態から頭を持ち上げられない(頸部屈筋の筋力低下)、食べ物や水分を飲み込むときにむせる(嚥下障害)。
発症原因と抗Jo-1抗体などの血液検査マーカー
なぜ自己免疫の暴走が起こるのか、その根本原因は完全には解明されていません。しかし、遺伝的な感受性(特定のHLA型など)を背景に、ウイルス感染、過度な環境ストレス、紫外線、一部の薬剤などが引き金となって免疫バランスが崩れると考えられています。
診断の鍵を握るのが血液検査です。筋肉が破壊されると、筋細胞内に存在する酵素である「血清クレアチンキナーゼ(CK/CPK)」やアルドラーゼ、ミオグロビンが血液中に大量に漏れ出します。さらに、多発性筋炎に特異的な自己抗体として「抗ARS抗体群(代表的なものが抗Jo-1抗体)」や「抗SRP抗体」などが検出され、これらは後述する間質性肺炎の合併リスクや治療反応性を予測する重要な指標となります。