カツオのたたきを解凍した際に生じる最大の敵は、魚体から染み出る赤い液体「ドリップ」です。このドリップこそが、パサつきや生臭さ、香ばしさの消失を招く直接的な元凶となっています。
食品科学の観点から見ると、食品が凍結・融解する過程には「最大氷結晶生成帯」と呼ばれるマイナス1℃からマイナス5℃の温度帯が存在します。カツオがこの温度帯をゆっくり通過すると、細胞内の水分が大きな氷の結晶へと成長し、魚肉の筋繊維や細胞膜を内側から突き破ってしまいます。
解凍時にその破壊された細胞から、旨味成分(イノシン酸やグルタミン酸)や鉄分を豊富に含むミオグロビン色素が水分とともに流出します。これがかつおのたたきにおける解凍時のドリップの理由です。さらに、流出した鉄分が空気中の酸素と触れて酸化し、魚特有のトリメチルアミンと結合することで、鼻をつく不快な生臭さへと変化します。せっかくの藁焼きの燻製香も、ドリップが表面を洗い流してしまうため、台無しになってしまうのです。