冬彦さんを語る上で絶対に外せないのが、薄暗い自室で子供用の木馬に跨がり、不気味な表情を浮かべながら揺れるシーンです。妻の美和に冷たく拒絶された後、寂しさと狂気を紛らわすように木馬をギッコンバッタンと揺らす姿は、お茶の間に強烈なトラウマを植え付けました。
実は、この木馬の演出は当初の台本には詳細に書かれていたわけではありませんでした。佐野史郎本人が「大人の男が子供部屋のような空間で木馬に乗っていたら面白いのではないか」と現場で提案し、小道具として持ち込まれたという裏話が存在します。佐野のアングラ演劇出身ならではの身体表現と、狂気を具現化する研ぎ澄まされた嗅覚が生み出した奇跡のワンシーンでした。
また、劇中で放たれる数々のセリフも視聴者を震え上がらせました。母親に対する甘えた声の「ンフッ」「ママ」、そして妻を執拗に追い詰める「許せない、許せない」「僕ちゃんを裏切ったね」といったフレーズは、佐野史郎の抑揚を抑えた不気味なトーンによって、日本ドラマ史に残る名言として刻まれています。