一歩足を踏み入れると、ギシギシと心地よい音を立てる床板や、太い梁が目を引く。この建物は明治2年(1869年)の伊勢神宮式年遷宮の際、旧宮域の貴重な下賜材(かしざい)を用いて建てられたものだ。かつて旅籠として全国からの参拝客を迎え入れていた空間には、当時の賑わいがそのまま残されているかのような独特の気配が漂う。
五十鈴川に面した窓際の席からは、四季折々に表情を変える伊勢の自然を一望できる。春には桜が咲き誇り、夏には清流の水面が輝き、秋には紅葉が彩りを添える。木漏れ日が差し込む畳の間でゆったりと耳を澄ませば、川のせせらぎと心地よい雑踏の音が混ざり合い、日常の喧騒を忘れさせてくれる。