本作でメガホンをとった是枝裕和監督は、これまでも『万引き家族』や『誰も知らない』などで歪みや温もりを孕んだ「家族のあり方」を描き続けてきた世界的な巨匠だ。彼が京都花街の置屋という特殊なコミュニティにカメラを向けたとき、鮮やかな化学反応が起きた。
是枝監督が描いたのは、絢爛豪華な伝統芸能の表層ではない。早朝の買い物、厨房で野菜を刻む包丁の音、台所で繰り広げられる何気ない会話。それらが積み重なることで、単なるノスタルジーにとどまらない緻密なヒューマンドラマへと昇華されたのだ。過剰な演劇的ドラマを排し、日常の機微を丁寧に掬い取る手腕は、エンターテインメント業界からも改めて高い評価を獲得した。