家庭内でのストーブ事故と対をなすのが、自動車やバイクにおける給油トラブルです。とりわけ「ガソリンが高騰しているから、安い灯油を混ぜて走れないか」「手元にあった燃料を間違えてタンクに流し込んでしまった」というケースが後を絶ちません。
ガソリン車に灯油を入れた場合、エンジン内部ではどのような破壊が生じるのでしょうか。現代のガソリンエンジンは、高オクタン価(自己着火しにくい耐ノッキング性)の燃料を吸入し、スパークプラグによる精密な電気点火で爆発力を得ています。しかし、灯油はオクタン価が非常に低く、ピストンの圧縮工程でプラグ点火よりも前に勝手に異常燃焼(デトネーション)を起こします。
代表的な誤給油時の症状と対処法は以下の通りです。
- 初期症状:アクセルを踏んでも加速せず激しい息継ぎが発生する、エンジンルームから「カリカリ」「キンキン」という激しいノッキング音が発生する。
- 中期の進行:燃焼温度の異常上昇と不完全燃焼により、マフラーから大量の白煙や黒煙が噴出。スパークプラグにカーボンスラッジが堆積して失火(ミスファイア)を起こす。
- 最終的被害:未燃焼の灯油成分が排気管の三元触媒に流れ込み、触媒内で異常燃焼して高熱融損を引き起こす。最悪の場合、ピストンヘッドが溶損・固着して走行不能(エンジンブロー)に至り、数十万〜百万円規模の載せ替え修理費用が発生します。
誤給油に気づいた際、絶対にやってはならないのが「エンジンを始動すること」です。キーを回したりスタートボタンを押してイグニッションをONにすると、燃料ポンプが作動して配管やインジェクター全体に灯油が送り込まれてしまいます。エンジンをかけず、すぐにJAFやロードサービス、ディーラーに救援を要請し、タンクからの全量抜き取り・燃料ライン洗浄を行わなければなりません。