音楽史や芸能界を振り返れば、ダミ声を独自のアイデンティティへと昇華させたカリスマたちが数多く存在します。彼ら・彼女らは、喉のザラつきを「情感」や「説得力」の増幅装置として機能させています。
ルイ・アームストロングは、そのしゃがれた野太い歌声でジャズの歴史を塗り替えました。国内に目を向ければ、桑田佳祐の日本人離れしたスモーキーで太い濁り声は、ロックと歌謡曲を融合させた金字塔です。桑田氏は若き日に自身のハイトーンな美声に限界を感じ、声を意図的につぶすようなアプローチを取ったという逸話も知られていますが、後年徹底した喉のコンディショニングと発声改良を重ねている点は見落とせません。
また、アイナ・ジ・エンド(元BiSH)の歌声は、擦れたかすれ音と鋭いがなりが混ざり合う独特の質感で聴き手の胸を締め付けます。彼女は過去に声帯結節の手術を経験しながらも、自身の声の持つハスキーかつダミ声的なエッジを徹底的に研究し、唯一無二のエモーショナルな歌唱表現として確立しました。
演歌・歌謡曲の分野で長年愛された八代亜紀氏のハスキーボイスも、哀愁や夜の情景を呼び起こす究極のシグネチャーでした。芸能界のトーク分野でも、千鳥・大悟氏のような野太く擦れた声は、語りのユーモアと泥臭い人間味を際立たせる大きなファクターとなっています。