ふたりの出会いの経緯は、矢部さんが住まいを探していた際に偶然見つけた新宿区内の木造一軒家でした。1階に塩野郁子さんが暮らし、2階の部屋を矢部さんが間借りすることから奇妙で温かい共同生活が幕を開けます。
最初は「一階の住人」と「店子」という関係でしたが、庭の草木の水やりやゴミ出しの挨拶を交わすうちに、ふたりの距離は急速に縮まっていきました。代表的なエピソードを振り返ると、ふたりの関係性の深さがよく分かります。
ある日、大家さんは矢部さんを新宿の伊勢丹へ誘い、デパ地下でお惣菜を一緒に選び、喫茶店でお茶を楽しみます。また、季節が巡れば一緒に満開の桜を見に出かけたり、箱根へ旅行に行ったりと、まるで年の離れた親友のような時間を過ごしました。
「矢部さん、うどんを食べに行きませんか」と誘われればふたりで並んで出汁をすすり、夜には「矢部さん、ホタルを見に行きましょう」と誘い合って夜風に吹かれる。孤独死や世代間分断が取り沙汰される時代にあって、互いに敬意を払いながら寄り添うふたりの姿は、多くの人々の胸を打ちました。