大衆娯楽の王座にあった映画産業もまた、劇的な構造変化の波に洗われていた。テレビの普及によってスクリーン離れが進む中、映画界は生き残りをかけた新たな表現の模索を迫られていた。その中で圧倒的な支持を獲得したのが、松竹の『男はつらいよ』シリーズである。山田洋次監督と渥美清が紡ぐ車寅次郎の物語は、急速な都市化の中で失われゆく人情と故郷への郷愁を見事に捉え、庶民の心の拠り所となった。
その一方で、東映は実録路線や過激なバイオレンス、エロスを前面に押し出した作品群で熱狂的な支持を集めた。従来の正義漢ヒーロー像を打ち破り、欲望と泥臭い生気に満ちた人間模様を描き切る東映の映画群は、時代の鬱屈したエネルギーの受け皿となったのだ。温かなノスタルジーと暴力的なリアリズムという対極の熱量が、映画館の暗闇で共存していた。