「春夏冬二升五合」が誕生した文化的背景には、江戸時代中期から後期にかけて町人層を中心に大流行した「判じ物(はんじもの)」の存在があります。
当時、浮世絵師の歌川広重や葛飾北斎らも手がけた判じ絵は、絵の中に隠された言葉を当てる知的ななぞなぞ遊びでした。例えば「鎌(かま)」の絵に「○(輪=わ)」と「ぬ」の文字を添えて「構わぬ(かまわぬ)」と読ませる歌舞伎役者・市川團十郎の紋様などはその典型です。
江戸の町民社会では、物事を直接的・即物的に表現することを「野暮(やぼ)」とし、知恵を絞って間接的に伝えることを「粋(いき)」と尊ぶ美意識が徹底していました。
商人が「儲かりたい」「金を稼ぎたい」と露骨に掲げるのではなく、来店客が頭を捻って謎を解き、「なるほど、益々繁盛か!」と納得した瞬間に笑顔が生まれる――。これは現代の認知心理学でいう「アハ体験(閃きの快感)」を活用した体験型マーケティングそのものです。店側と客側が同じ謎を共有することで仲間意識が芽生え、強固なロイヤルティが構築されていきました。