釣り船の現場において、イカの沖漬け作りは一種の儀式のような熱気をもって行われます。夜釣り船の甲板で夜光針に抱きついたスルメイカを釣り上げると、アングラーたちは手早く針を外し、あらかじめ調合してクーラーボックスに冷やしておいた特製ダレの密閉容器へと滑り込ませます。
「タレに入れた瞬間にイカが『ブシュッ』と音を立てて海水を吹き出し、身を真っ赤に怒らせながらタレを吸い込んでいく。あの瞬間に身の芯まで味が決まる」――これは長年日本海側のイカ釣り船に乗船しているベテラン船長の手記や船上インタビューで幾度となく語られてきた証言です。
生きたまま漬けることで、イカは漏斗(ろうと)と呼ばれる器官からタレを勢いよく吸引します。この自然な生理反応により、包丁で開くことなく内臓の奥深くまでタレが行き届きます。釣り上げてから数時間後、タレを吸ったイカを取り出すと、透き通っていた胴体は琥珀色へと染まり、パンパンに張った状態に仕上がります。
Web上のコミュニティやSNSに投稿されるリアルな声でも、「現地で漬けたイカを持ち帰り、自宅で切り分けた瞬間に溢れ出る肝ソースの旨さは格別」「市販のイカ刺しとは別次元の旨味の凝縮感がある」といった絶賛の感想が溢れています。この力強い旨味の源泉泉は、タレに含まれるアミノ酸とイカ自身の肝(中腸腺)に含まれる高濃度の脂質・グリコーゲンが、生体反応の直後に化学的に融合することにあります。