東京を代表する古刹、金龍山浅草寺の本堂前には、巨大な青銅製の香炉が鎮座している。浅草のシンボルとして年中無休で煙を吐き出すこの炉は、関東大震災や戦災を乗り越え、祈りを捧げ続ける庶民のエネルギーを吸い込んできた。香煙の彼方に本堂の大屋根が霞む情景は、東京という大都市の中心に生き続ける宗教空間の原風景だ。
一方、千葉に大伽藍を構える大本山成田山新勝寺の大本堂前でも、壮厳な香炉が参拝者を迎え入れる。不動明王の御護摩祈祷で知られる成田山において、立ち上る香煙は不動の火焔とも響き合い、心願成就を期する祈願者の精神を研ぎ澄ます。名刹ごとに異なる佇まいを見せる香炉の表情を追うだけでも、日本人が寺院空間に何を求めてきたのかが見えてくる。