一過性の防衛反応として現れる感情の乱れと、治療を要する精神疾患との見極めは極めて繊細だ。日本産科婦人科学会が推進する周産期メンタルヘルスの指針では、産後数週間をピークに自然減衰する生理的反応と、持続的な抑うつ状態を区別することの重要性が強調されている。
怒りの矛先が周囲に向いているうちは生体防衛の文脈で説明がつく場合が多いが、攻撃性が自責の念へと反転し、「自分は母親失格だ」「消えてしまいたい」という絶望感に変わったとき、産後うつ病への移行を強く疑わなければならない。睡眠剥奪と孤立が重なれば、脳の自己制御機能は容易に破綻する。気分の波を単なる「産後の気難しさ」で片付けるのは極めて危険な兆候だ。