舞子公園を単なる「橋を眺める広場」と捉えるのは早計です。この地は明治から大正にかけて、政財界の重鎮や文化人が別荘を構えた瀟洒なリゾート地でした。その歴史を今に伝える3つの近代建築は、建築ファンのみならず一般の観光客にとっても見逃せない価値を放っています。
ひときわ目を引く八角三階建の楼閣が、国指定重要文化財である孫文記念館移情閣の見どころです。大正4年(1915年)に神戸の貿易商・呉錦堂が建てた別荘であり、中国の革命家・孫文が訪れたゆかりの地として、日本で唯一の孫文顕彰施設となっています。館内には精緻な木工装飾や美しいステンドグラス、当時の貴重な書簡や写真が保存されており、窓越しに見る明石海峡大橋の姿は他では味わえないコントラストを生み出しています。
さらに園内には、鐘紡の社長や衆議院議員を務めた武藤山治の洋館を移築復元した旧武藤山治邸(国登録有形文化財)と、昭和16年に建てられた本格的な数寄屋造近代和風住宅である旧木下家住宅(国登録有形文化財)が静かに佇んでいます。旧武藤山治邸では明治・大正期の優美な洋風意匠と当時のコロニアル様式を体感でき、旧木下家住宅では手入れの行き届いた前庭・中庭の情緒に浸ることができます。これら3館をめぐる共通入館券も用意されており、知的好奇心を満たす散策ルートとして定着しています。