九重部屋の強さの秘密は、本場所の取組をはるかに凌駕する凄絶な稽古場にありました。「ウルフ」の異名を取る千代の富士は、若い衆に対しても一切の妥協を許さない徹底した猛稽古で知られていました。そのウルフの最大の標的であり、誰よりも胸を借り続けたのが弟弟子の保志(北勝海)です。
土俵に転がされ、砂まみれになり、息が絶え絶えになっても容赦なく続く申し合い。千代の富士の左前ミツを取らせないスピードと強烈な上手投げに対抗するため、北勝海は頭から当たる鋭い立ち合いと低く重い押しを徹底的に磨き上げました。「稽古場で千代の富士関に勝つこと以上のプレッシャーは、本場所の土俵には存在しなかった」と後に振り返られるほど、二人の稽古は日常的に限界を超えていました。北勝海の強靭な下半身と不屈の闘志は、千代の富士という巨大な壁に跳ね返され続けた日々の中で鍛え抜かれた賜物です。