山間の深い谷に位置するこのエリアは、かつて昭和13年に起きた未曾有の惨劇の舞台として全国に知られることとなった。推理作家の横溝正史はこの凄惨な史実から構想を得て、名作小説を生み出した。そして後に制作された映画『八つ墓村』(1977年公開、野村芳太郎監督)によって、その怪奇的で恐ろしいイメージは決定的なものとして世間に定着したのである。
しかし、今回の現地取材で浮かび上がったのは、映画や小説のフィクションが作り上げたおどろおどろしいパブリックイメージとは大きく異なる「真実」の姿だった。地元住民へのインタビューによれば、集落に生きる人々は凄惨な過去の影と長年向き合いながらも、山林の維持管理や伝統文化の継承にひたむきに取り組んできたという。フィクションの「呪われた村」という偏見の裏側で、地域社会を支える強い絆と誠実な暮らしが今なお受け継がれている事実は、メディアによって覆い隠されがちだった隠された真実と言えるだろう。