一郎彦という複雑怪奇で悲哀に満ちたキャラクターに血を通わせたのが、日本を代表する実力派キャストの表現力です。
幼少期を演じた黒木華は、父への無垢な憧憬と、弟への面倒見の良さの中に、どこか壊れそうな儚さと張り詰めたプライドを絶妙なニュアンスで表現しました。健気であればあるほど、のちの悲劇を予感させる見事な導入となっています。
そして、青年期を担当した宮野真守の演技は圧巻の極みです。前半に見せる気品溢れる貴公子然とした声色から一転、闇に侵食されていく過程で見せる怨嗟、狂気、そして泣き叫ぶような慟哭に至るまで、圧倒的なグラデーションで演じ切りました。宮野真守の鬼気迫る怪演があったからこそ、一郎彦は単なる悪役にとどまらない、観る者の涙を誘う悲劇のアンチヒーローとして成立しています。