本作の構成において最も映画的な冒険と言えるのが、主人公である九太の成長を、少年期と青年期で完全に異なる2人の俳優に託した点です。
少年期(9歳)を演じた宮﨑あおいは、細田監督の前作『おおかみこどもの雨と雪』の花役で見せた慈愛に満ちた母性から一転、本作では牙を剥く子獣のような獰猛さを披露しました。母親を失い、親族から逃げ出し、路地裏で膝を抱えていた九太が、熊徹と出会って怒鳴り合い、殴り合いながら生きる術を学んでいく姿を、嗄れ声混じりの力強い発声で見事に演じ切っています。現場の特番インタビューにおいて宮﨑は、喉を酷使しながら本気で熊徹役の役所広司にぶつかっていったアフレコの熱量を明かしています。
そして物語の後半、17歳へと成長した九太を引き継いだ染谷将太への移行は、まさに鳥肌が立つほどの説得力を持ちます。少年期の「ただ生き延びるために吠えていた子供」から、筋骨隆々の体躯を手に入れながらも「自分は何者なのか」という内省的な空虚を抱える青年への変貌。この声変わりと精神的成熟のグラデーションは、同一の声優が演じ分ける手法では到達し得ない、肉体的・心理的な断絶と連続性を見事に提示しました。
宮﨑あおいが吹き込んだ「剥き出しの生命力」という種火を、染谷将太が「知性と孤独を併せ持つ人間の葛藤」へと昇華させるダブルキャストの采配は、九太という複雑なキャラクターに唯一無二の奥行きを与えています。