1964年9月27日生まれの岸谷五朗は、東京都武蔵野市出身。中央大学商学部に進学するも、演劇への情熱を抑えきれずに中退し、1983年に三宅裕司が率いる名門「劇団スーパー・エキセントリック・シアター(SET)」に入団します。ここから彼の表現者としてのキャリアが本格的に幕を開けました。
劇団員時代は、過酷な稽古と舞台公演を重ねることで、喜劇の間合いからシリアスな感情表現、ミュージカル仕込みの歌唱とダンスまで、演劇人としての強固な土台を構築していきました。同期や後輩たちの間でもその抜きん出た身体能力と求心力は際立っており、看板俳優の一角として着実に頭角を現していきました。
その実力が映画界に決定的な衝撃を与えたのが、1993年公開の映画『月はどっちに出ている』(崔洋一監督)でした。岸谷が演じたのは、在日コリアンのタクシー運転手・忠男。新宿の街を舞台に、逞しく、泥臭く、しかしどこか滑稽で愛おしい主人公の生き様を、生々しいリアリティと情熱をもって演じ切りました。
本作は興行的・批評的に社会現象となり、岸谷五朗は同年の第17回日本アカデミー賞新人俳優賞、ブルーリボン賞新人賞、キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞など、国内の名だたる映画賞の新人部門を総なめにしました。演劇界の有望株から、日本映画界の未来を担うトップランナーへと一躍名乗りを上げた歴史的瞬間でした。