旧伊勢神トンネル以外にも、愛知県内には「呪われた場所」として語り継がれるスポットが点在しています。それらの実態を検証すると、単なる都市伝説や言葉の誤解から生まれたものが少なくありません。
旧本坂トンネル:女性の霊と「姫街道」の因縁
愛知県豊橋市と静岡県浜松市の境界に位置する旧本坂トンネル。ここには「赤ん坊を抱いた着物姿の女の霊が出る」という定番の怪談があります。この噂のルーツは、東海道の今切の渡しや新居関所を避けて女性たちが利用した迂回路「姫街道(本坂通)」にあります。関所の厳しい取り調べを逃れるため、険しい本坂峠を越えようとして力尽きた女性たちの悲話が、大正時代に建設された暗い旧トンネルの情景と重なり合い、亡霊伝説へと昇華したと考えられます。
入鹿池:明治元年の大惨事「入鹿切れ」の記憶
犬山市に位置する入鹿池は、江戸時代に築造された日本最大級の農業用ため池です。夜間にボートに乗ると水中に引きずり込まれるといった噂が存在しますが、その背景には1868年(明治元年)に発生した堤防決壊事故「入鹿切れ」があります。連日の豪雨で堤防が決壊し、下流域の村々を呑み込んで約1,000人もの尊い命が失われました。地元にとって風化させてはならない未曾有の水害史が、いつしか「水難事故を呼ぶ池」という恐怖の物語に変容していったのです。
首狩り神社(浅間神社)と三角の家の虚像
日進市にある通称「首狩り神社」。おどろおどろしい名で呼ばれていますが、正体は尾三地域で崇敬される「浅間神社」です。境内に首塚があることからネット上で「昔、処刑場だった」「首を狩られた武士の呪いがある」と拡散されましたが、実際は「首から上の病気平癒」を祈願する伝統的な民間信仰に由来します。病気平癒の祈りの場が、名前の字面だけでホラースポットに仕立て上げられた典型的な風評被害です。
また、かつて一宮市などに存在し「一家心中の跡」「足を踏み入れると発狂する」と騒がれた「三角の家」についても、公的記録に一家心中などの凶悪事件は一切確認されていません。変形敷地に建てられた特異な三角形の建造物という外観の異様さから、ネットコミュニティで怪談が創作されたに過ぎません。なお、同物件は現在すでに取り壊しが完了しており、敷地は完全な私有地として管理されています。