2012年、望月氏が自身のウェブサイト上に突如公開した4本の論文は、世界中の数学界に強烈なショックを与えた。そこに記されていたのが、ABC予想を根本から攻略するための大仕掛け、「宇宙際タイヒミュラー理論」である。足し算と掛け算が密接に絡み合う従来の数学的「宇宙」を一度解体し、別々の宇宙で数を捉え直してから再び繋ぎ合わせるという、極めて大胆なパラダイムシフトであった。
しかし、その理論体系はあまりにも独創的であり、理解できる研究者が世界に数人しか存在しないという異例の事態を引き起こした。既存の道具立てが一切通用しない独自記法と概念の山に対し、国際的な研究集会が何度も開催されたものの、議論は困難を極めた。理論の全貌を解読すること自体が巨大な壁となり、数学界は長年にわたり暗中模索の検証作業を余儀なくされたのである。