牟田氏が実践する校正仕事術の真骨頂は、徹底した「疑う姿勢」と「謙虚さ」の共存にあります。彼女の仕事机には新旧の国語辞典、漢和辞典、地名辞典、人名事典、専門用語集が所狭しと並び、どれほど見慣れた単語であっても、必ず辞書を引いて原義や語源を確かめるルーティンが徹底されています。
彼女の流儀を特徴づけるポイントは以下の通りです。
・「知っている」と思い込まない:慣用句の誤用や歴史的事実の整合性、固有名詞の表記揺れを徹底的に調査する。
・鉛筆と赤字の使い分け:明らかな誤字脱字は赤字で指摘しつつ、表現の選択肢や疑問点は鉛筆(または鉛筆書きの付箋)で「著者の判断を仰ぐ問いかけ」として提示する。
・文体を殺さない寄り添い:文法的に正しくても、著者のリズムや意図した破調であれば無理に直さず、その文体が持つ魅力を最大限に尊重する。
校正とは、著者の表現に傷をつける作業ではなく、文章が読者に届くまでの間に潜むノイズを取り除く手仕事である——。牟田氏の仕事術は、情報発信に関わるすべての書き手にとって普遍的な教訓に満ちています。