ちあきなおみがマイクを置いたのは、1992年9月11日のことでした。俳優として活躍していた夫・郷鍈治(ごう えいじ)さんが、肺がんのため55歳の若さでこの世を去った直後から、彼女はすべての芸能活動を停止しました。
告別式で棺に取りすがり、「私も一緒に焼いて」と号泣した姿は、当時多くのメディアで報じられ日本中に大きな衝撃を与えました。1978年に結婚した二人は、単なる夫婦にとどまらず、郷さんが個人事務所の社長兼プロデューサーとして彼女を陰から支える無二のパートナーでした。業界の複雑な人間関係やプレッシャーからちあきさんを守り抜いた郷さんの存在は、彼女の表現力そのものを支える柱だったのです。
公式な「引退会見」を開いたわけではありませんが、関係者に対して「夫がいない世界で歌う意味を見出せない」という趣旨を伝え、表舞台から静かに身を引きました。名曲『喝采』で一世を風靡し、唯一無二の歌唱力で頂点を極めた歌姫の引退理由の真相は、損得や契約ではなく、最愛の伴侶に捧げた純粋すぎる愛の決断でした。