新大久保は、流行の移り変わりが日本で最も激しい街の一つです。チーズハットグ、トゥンカロン、10円パンといった爆発的トレンドが生まれては数年で淘汰されていくなか、なぜ「カントンの思い出」は創業以来20年以上にわたって第一線を走り続けられるのでしょうか。この現象は、消費社会学における「ノスタルジー消費(ニュートロ現象)」と「心理的サードプレイス」の観点から説明がつきます。
店名の「カントン(깡통)」は、韓国語で「空き缶・ブリキ缶」を指します。ドラム缶をテーブルに仕立て、丸椅子に腰掛けて肉を焼き、酒を酌み交わすスタイルは、1970〜80年代の韓国の庶民たちが日々の疲れを癒やした大衆酒場の原風景です。現代のデジタル化された日常において、過剰に洗練された空間やSNS映えを過剰に狙った店舗は、時に利用者に「見栄を張るための演出」という無意識の緊張感を強います。
これに対し、同店の持つ程よい雑多感、古びたポスター、温かみのあるブリキの質感は、訪れる人の防衛本能を緩め、ありのままの自分でいられる「心理的安全性」を提供します。韓国の伝統を知る世代には懐かしさを、Z世代をはじめとする若い層には「未体験のリアルな異国情緒」としての新鮮さを与えるという、二重の心理的充足をもたらしているのです。単に肉を提供するだけでなく、「かつての温かい人間関係の気配」を消費できる場であることが、街の移り変わりに左右されない強固なブランド力を生み出しています。