発端は、イギリスの伝承童謡集であるマザー・グースの一節に遡る。高い塀から落ちて粉々に砕け散り、王のすべての馬と兵士を集めても二度と元には戻せない。この不条理極まりない数行の詩は、もともと子どもたちに向けた「なぞなぞ(Riddle)」として親しまれていた。答えを知るまでは何のことか分からない仕掛けであり、詩のテキスト自体には「卵」という単語は一文字も登場しない。
歴史学者や民俗学者の間では、古くからその正体をめぐる激しい議論が交わされてきた。17世紀の清教徒革命(英国王党派と議会派の内戦)において、コルチェスター包囲戦で使われた巨大な大砲の通称だったという説。あるいは、不恰好な体型で王座から転落したリチャード3世への痛烈な政治風刺劇だったという説。いずれにせよ、ハンプティ・ダンプティは最初から無邪気なキャラクターなどではなく、戦争や政治的失脚といった生々しい歴史の傷跡を背負った暗喩だった可能性が高いのだ。