団塊の世代が70代後半に達した現在、避けて通れないのが「年間50兆円規模」とも試算される大相続時代の本格化です。彼らが保有する金融資産や不動産が、次世代へと引き継がれるプロセスにおいて、全国規模の深刻なトラブルが噴出しています。
最大の落とし穴は、「認知症による資産凍結」です。団塊の世代全員が75歳を超えたことで、軽度認知障害(MCI)や認知症の診断を受ける人の割合が急増しています。判断能力が不十分とみなされた瞬間、本人の銀行口座からの預金引き出しや定期預金の解約、自宅不動産の売却が一切不可能になります。その結果、高額な施設入所費や医療費を、子である団塊ジュニア世代が自腹で立て替え続け、家計が破綻に追い込まれる悲劇が各地で発生しています。
もう一つの難問が、「地方の実家空き家問題」です。団塊の世代が高度成長期に郊外へ購入した一戸建て住宅は、現在となっては築40〜50年を超え、断熱性や耐震性に問題を抱えています。子世代はすでに都市部に居を構えているため、「相続しても住む予定がない」「売却しようにも買い手がつかない」という負動産(負の遺産)と化し、解体費用数百万円を巡って兄弟間で骨肉の争いに発展する事例が後を絶ちません。
【プロの結論】家族社会学・共依存の視点から見出すべき教訓
家族社会学および臨床心理学の観点からこの問題を分析すると、団塊世代と団塊ジュニアの間には、昭和特有の「親子の過剰な一体感」と「心理的バウンダリー(境界線)の欠如」が見受けられます。
親世代は「子どもの面倒を見るのは親の責任であり、親の老後を看るのは子の当然の義務」という固定観念を抱きがちです。しかし、共働きが一般化し、自らの生活維持だけで手一杯な現代の子世代にそれを無条件で強要することは、親子共倒れの破滅的な共依存関係を生み出す温床となります。
今求められるのは、「親は親、子は子」という冷徹なまでの境界線の設定です。親が健康なうちに財産目録を作成し、任意後見制度や家族信託を活用して資産管理の権限を明確にしておくこと。そして、介護が必要になった際には「家族の愛情」で抱え込まず、ケアマネジャーや公的サービスを限界まで使い倒す合理主義へ舵を切ること――感情論を排したこの割り切りこそが、双方が共倒れを防ぐための唯一の防波堤となります。